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ニュースリリース

【参本会議】舟山議員が食料・農業・農村基本法改正案に対する反対討論

 舟山康江両院議員総会長(参議院議員/山形県)は29日、国民民主党を代表し、参議院本会議で議題となった「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案」に対する反対討論を行った。討論の全文は以下のとおり。

食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する反対討論

令和6年5月29日
国民民主党・新緑風会 舟山 康江

 国民民主党・新緑風会の舟山康江です。
 会派を代表して、只今議題となりました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に「反対」の立場から討論します。

 食料の安定供給の確保は国家の最大の責務です。1999 年制定の現行基本法では、食料の安定供給に向けて、「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行う」と、この時点で既に「国内の農業生産増大」を中心に据えていました。一方で、この 25 年間、安価な海外農産物との競合、とりわけ、WTOやTPPなどの農産物自由化圧力による輸入増により、国内の農業生産は増大どころか停滞、長引くデフレ基調で農産物価格も低迷し、収益性が低下。農業従事者が減少、農地も、転用に加え耕作放棄地の増加で、減少の一途を辿っています。こうした「農業生産基盤の弱体化」の結果、食料自給率は現在カロリーベースでわずか38%、先進国の中でも著しい低水準となっています。
 「経済大国、日本」を謳歌し、足りなければ輸入すればいい、割高な国産より安い外国産の方が消費者の利益になる、とさえ言われていた時代は、今や、遠い昔です。
 地球規模での気候変動や国際情勢の不安定化、各国の人口動態や経済状況などに起因する食料需給の変動などで、世界の食料事情は深刻化し、「いつでもどこからでもお金さえ出せば食料は手に入る」状況は一変し、今や、食料需給自体の逼迫化で、お金を出しても食料が手に入らない時代となりました。ましてや、危機の際に自国を犠牲にしてまで他国に輸出してくれる国はありません。
 「食料を自給できない国は真の独立国ではない」かつてフランスのドゴール大統領が発した言葉ですが、独立国として、「国内生産を増大し」「食料自給率を高める」。まさに、「食料安全保障の確保」の必要性が日増しに高まっています。
 だからこそ、「農政の憲法」である食料・農業・農村基本法の役割は極めて重大ですが、生産基盤強化につながる理念と政策を再構築する改正への期待も虚しく、十分な措置が講じられたとは到底評価しがたく、相変わらず自助努力と競争力強化で強い農業を目指すという方向性自体が世界の潮流と乖離し、政府の危機感が全く感じられません。以下、具体的に申し述べます。

 第一に、口では「国内の農業生産の増大はこれまで以上に重要」と言いながら、条文に反映されていません。だから私たちは、立憲民主党と共同提出した修正案で、「食料自給率向上」や、食料供給能力の「維持向上」の明記を提案しましたが、全く受け入れられませんでした。

 第二に、農業従事者や農地の減少などの「生産基盤の弱体化」を問題視しているものの、背景にある原因を的確に捉えることなく、その解決策も欠いていることです。
 最大の原因は、「農業では儲からないから」であり、所得の確保が何より重要です。現行基本法では「価格形成は市場に任せ、所得の確保は政策に委ねる」との明確な柱のもと、一部、直接支払い制度が実現しました。
 しかし、私たちがいくら所得確保の重要性を訴えても、「農業所得を確保、向上することで重要なことは、農業者が創意工夫を生かした農業経営を展開し、収益性を上げていくこと」と、まるで自助努力頼みの坂本大臣の答弁には驚きました。経営が厳しい、続けられない、と訴える方は、努力不足なのでしょうか?怠けているのでしょうか?
 採算度外視で何とか荒らさず営農を続け、農地を守っている方々の役割の後押しが必要であり、農地の維持保全に着目した直接支払い制度の導入を提案します。
 加えて、国内人口減少よりもずっと著しい農業者減少の理由を国内人口減少に矮小化している点も見逃せません。人口減少下でも就業人口が増えている産業分野もある中、高齢化の進行や新規就農者数の低迷は、政策の誤りによるところが大きいことに目を背けては、本当の解決策は打ち出せません。

 第三に、「合理的な価格」の実現があたかも農業生産の現場にとっての再生産可能な価格であるかの幻想を、強調していることです。
 食料生産のコストを全て価格に反映できることが理想かもしれませんが、価格はその時々の需給状況により市場で決まります。生産から消費の各段階で、生産に要するコストや、適正な価格のあり方の理解を深めて頂くのは重要ですが、委員会では、政府からも「合理的な価格については、生産費を考慮する」としつつも、「必ずしも再生産できるかどうかというところには補償するものではない」との答弁がありました。しかも輸入品との競合品目は尚更であり、コストをまるっと乗せて輸入品より高くなり国内シェアが奪われるのは本末転倒、そんな答弁もありました。
 与党委員からも、「再生産可能な農業」の重要性が指摘される中、再生産に必要なのは価格ではなく所得である、このことを改めて明記頂く必要があります。

 第四に、畑地化推進の姿勢が鮮明に打ち出されたことにも危惧を抱かざるを得ません。水田が地域に不可欠な多面的機能を有しているのはもちろんのこと、大臣も委員会答弁でお述べになった通り、主食である米の生産基盤をなす水田の維持は我が国の安全保障そのものです。
 水路や基盤整備など多くの先人の努力で培ってきた水田を一度失えば、それを取り戻すことは容易ではなく、水田の維持にこれまで以上に注力すべきです。

 第五に、「効率的かつ安定的な農業経営を営む者」と、「それ以外の多様な農業者」を分けて論じ、後者は、経営所得安定対策の対象外にするなど、地域の分断を生む政策に執着している点です。基本法検証部会でも、委員から「中小規模農家が持続可能な経営を続けられることも重要」との指摘があり、また、私の地元でも、「集約化で集落崩壊の危機が拡大」「集落の構成員たる小さな農家も地域には必要だ」との声をたくさん頂いています。この声にどのように対応するのでしょうか?
 農業者は、農業生産と併せて、消防団活動やPTA活動などの地域活動の担い手や、伝統や文化の継承者など、お金に換えられないたくさんの役割を果たしています。
 昨年秋の臨時国会での所信表明演説で、食料安全保障に関する発言を地方創生の項に入れていた趣旨について、総理は、農林水産業、これは地方経済の活性化につながるとともに食料安全保障の強化に資するものだからと答弁されています。
 まさに、担い手とそれ以外で二分するのではなく、全ての農業者を等しく支える農政こそが、地域の活性化と食料安全保障にもつながることを改めて訴えます。

 第六に、本法案での農村の振興に関する基本認識には、大きな誤りがあります。
 農村、特に中山間地域では、少子高齢化・人口減少が都市に先駆けて進行している一方で、「田園回帰」の動きが全国的に広がるなど、農村の持つ価値や魅力が国内外で再評価されています。
 令和2年策定の現行「食料・農業・農村基本計画」では、農村の振興に関して、「地域政策の総合化を図ることが重要」「農林水産省が中心となって、」「関係府省が連携した上で・・施策を総動員」と謳われています。そして、その認識は改正後も変わらない、つまり、農業生産のみならず、多面的な役割を発揮する場、地域の資源を活かした産業を生み出す場であり、極めて幅が広い役割を農村が期待されている点を確認する大臣の答弁も頂きました。
 しかし、条文からはそのことが全く読み取れないどころか、事務方からの答弁は、農村振興の基本理念を謳った6条は、「農業に関連するということを極めて限定的に書いている」とのものであり、矛盾に満ちた、大問題答弁です。
 農村地域の魅力や可能性を発信し、農村に人を呼び込む。それによって農村全体を元気にし、地方創生につなげる。この観点からも、そこに住み、農業と農地を守ることを支援する施策の必要性が浮かび上がってきませんか!

 以上述べてきた各問題点を中心に修正案を提案したものの、一切応じて頂けませんでした。改めて、世界の食料情勢が厳しさを増す今、政府が現状を正しく分析・反省し、正しい道に進むよう、今一度立ち止まって、農政の憲法といわれる基本法に、もっとしっかりと問題意識を書き込むべく、再考の府、参議院の一員としてご判断頂くよう議員各位にお願い申し上げ、私の討論といたします。