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ニュースリリース

【参本会議】伊藤副代表が「特定商取引法改正案」について質疑

 伊藤孝恵副代表(参議院議員/愛知県)は21日、参議院本会議において、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」(特定商取引法改正案)について質問しました。質問内容は以下の通り。

質問概要 

 国民民主党・新緑風会の伊藤孝恵です。私は会派を代表し、ただいま議題となりました法律案について、質問いたします。

 12年前の2009年5月29日。この議場で、消費者庁設置関連法案が、全会一致で成立しました。

 相次ぐ食品偽装や製品事故の対応や相談窓口は、それまで各省庁がバラバラに担い、消費者にとって不便なだけでなく、行政対応が遅れて被害を広げる一因にもなっていました。食品表示担当の農林水産省と、衛生担当の厚生労働省が、対策に二の足を踏んだために多くの犠牲者を出した「こんにゃく入りゼリーによる窒息死亡事故」はその典型例で、1歳6ヶ月の赤ちゃんから、87歳に至るまで、子どもたちとお年寄りばかりが、窒息により亡くなりました。

 ねじれ国会の中にあっても、これではダメだと与野党全党が知恵を出し合い、長い時間をかけて修正協議を行い、88時間の審議と34の附帯決議をつけて、ようやく生まれたのが、現在の消費者庁です。同年9月の発足記者会見で、初代大臣は「我が国の行政の在り方を、消費者・生活者重視に大きく転換していくための突破口とする」と語りました。数えること20人目の大臣でいらっしゃる井上消費者担当大臣に以下、伺います。2009年以降、閣法・議法問わず、消費者庁に関連する法案は何本成立し、うち全会一致は何本だったか、お答えください。その数字には、消費者行政に対する立法府の意思が込められています。

 本法案の原案が、衆議院で全会一致とならなかった最大の理由は、突如盛り込まれた契約書面等の電子化によるものです。

 大臣は質疑の中で、電子化に関する消費者からの具体的な要望の有無を問われ「何か具体的に、個別に、あるいは書面でといった要望はなかったんだと理解しています」と、立法事実はない旨を認められました。消費者も消費者団体も、弁護士会や司法書士会、全国知事会も、誰も求めていない、日本訪問販売協会にいたっては「要望は勿論、業界内で議論すらしたことはなく“青天の霹靂”だ」とまで言った、この電子化は何故、改正事項となったのでしょうか。規制改革推進会議の要請があったというお答えは承服致しかねます。彼らが求めたのは「オンライン英会話コーチの契約」など極めて限定的な範囲です。

 これまで不意打ちの勧誘や、利益を強調する勧誘、提供される役務内容に関する誤認を防止するなど、そこに合理的理由があるからこそ、書面による交付は法定とされて来ました。契約内容の警告機能や、クーリングオフの告知機能によって、消費者被害を防止・救済する重要な役割を担ってきた書面交付を不要とするのであれば、当然、傍証が求められます。高齢者の契約における家族やヘルパーなど、第三者の視認による消費者被害の発見や被害回復の効果について、大臣はどのようにお考えでしょうか。訪問販売やマルチ商法、電話勧誘販売や預託取引など、消費者被害における過去10年の発生件数と、被害者年齢の特徴、事件発覚の端緒等の傾向を示した上で、書面交付は必要ナシとの結論に至った理由をお示し下さい。

 政府は、電子化は時代の潮流であり、契約書面等の電子化は「消費者の承諾」を前提とする、あくまで選択肢のひとつなのだから問題はない、との認識でした。しかし考えてみて下さい。まさに消費者の承諾、それも納得ずくの承諾が、事後的に争われる。それが「悪質商法による消費者被害」というものです。この被害は何故、後を絶たないのでしょうか?言わずもがな、それは、特殊な心理状態に追い込んで承諾させる、契約締結に至らしめるのが、悪質事業者の手口だからです。こうした事業者から、判断能力が低下傾向の高齢者のみならず、予備知識の乏しい若者などの被害を未然に防ぐことこそが、消費者庁の最大のミッションだと考えますが、大臣のご見解をお聞かせ下さい。

 今回の法改正では、適切に承諾を得ずに電磁的交付をした場合は、行政処分や罰則の対象になります。この「適切」に承諾を得ているのかどうかは、誰が、いつ、何処で、どのように判断するのでしょうか?

 悪質事業者を相手に、消費者が、その「不適切性」を立証するのは相当難しいと思われ、また、法の穴をかいくぐる能力にたけている悪質事業者との「いたちごっこ」に対抗できる調査能力や体制、ノウハウを、今の消費者庁が内包しているとは到底思えませんが、大臣のご所見を伺います。

 2000年11月8日、IT書面一括法に係る国会審議に於いて、当時の担当大臣は「契約をめぐるトラブルが現に多発している法律、例えばマルチ商法規制の訪問販売法等については、そもそも本法律案にはなじまないですから、対象としないことにいたしました」と、答弁されています。 2000年といえば「IT革命」という言葉が流行語大賞にも選ばれた年です。今以上にデジタル化が喧伝されていた中にあっても、政府は従来からの一貫した方針を変えませんでした。それを覆した今回の判断です。余程の理由、政府の方針転換があったのだと思います。理由を教えて下さい。

 この10年で、消費者リテラシーを含め、契約書面等の電子化を許容する環境が整ったのかといえば、むしろ逆で、コロナ禍で拡がる困窮と混乱の中で、高齢者が狙われ、デジタルデバイドは深刻化し、消費者被害の相談件数は右肩上がりです。給付金詐欺にワクチン詐欺、身寄りのないお年寄りが、ワクチンの予約をとろうと一日中役所に電話をかけても繋がらず、誰にも頼めず、不安でいる中、「予約を代行しますよ」とかかってきた電話に飛びついてしまう気持ちを大臣、想像してください。

 スマホの保有率や電子商取引の市場規模、そんな数字を並べて電子化を正当化する知恵があるなら、消費者被害に遭ってしまう、1人1人の高齢者の孤独を、暮らしを想像し、対策を講じて下さい。

 政府は電子化による被害が起きないよう、政省令で必要な対策を定めるとしています。その具体例として示されたのは「紙の書面で事前承諾を取る」というものです。今まで紙で契約を取り交わしてきたものを電子化したいが為に、まず、契約の事前承諾を紙で取り交わし、契約書自体は電子化する…まるでコントです。政省令でいかなる対策を備えるおつもりか。ご説明ください。

 政府のデジタル化はどれもこれも「手段が目的化」しています。本改正案の目的でいえば、まさに法案名「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特商法改正」であるのに、いつの間にか電子化が目的になっています。基、それが消費者保護に資するものであれば、未だ救われるのですが、全くそうではないと言う声が、現場からこんなに溢れているからこそ、我々は対案を提出し、再考を求めています。

 日に日に大きくなる懸念に対し政府は、契約者が高齢者の場合は、家族など第三者のメールアドレスにも送付させる等、政省令や通達等において、規定される承諾の実質化を図ることを検討されていると伺いましたが、悪質事業者は、ならばと、家族のいない高齢者を狙うでしょう。「息子には相談出来ない…」という、親心の隙間につけ込むでしょう。大臣、これらは充分な歯止めになり得るのでしょうか?手段が目的化してしまっている、この袋小路から抜け出る方法はただ1つ、本法律案から契約の電子化規定をいったん削除し、消費者保護の観点から、消費者や消費者団体等の意見を聞く場を公で設け、あらかじめ政省令や通達等も含めた制度設計をした上で、法律案を見直すことです。大臣の見解を伺います。

 最後に、消費者庁と同時に発足した民間有識者による監視機関「消費者委員会」について伺います。

 消費者委員会は、消費者問題を自ら調査、審議を行い、必要であれば各省庁、内閣総理大臣にまで建議、勧告等を行うことが出来る組織です。12年前、政権交代前夜の激動の中、与野党が衝突を封印し、共に拘り抜いたのが、この消費者委員会であり「第三者機関として消費者庁から独立させ、消費者庁をも監視させること」を目指したといいます。

 それがいつの間にか、消費者庁から巧みに送り込まれた事務局長が中心となり、今回の電子化をバックアップしていた事実は看過しがたく、先人の努力に連なる行政監視機能を果たせなかった、大きな自戒があります。この消費者委員会内のガバナンスには課題があると考えますが、大臣のご所見を伺います。

 私はDXの推進に賛成です。しかしデジタル化というものは、自己に関するデータを自由に管理・処分できる権利、自己に関するデータを無断で分析・予測されない権利など、守られるべき権利、安心の下敷きがあってはじめて、利活用への理解が進むものだと思っています。   

 そして社会の実情を顧みないデジタル先導には、摩擦や犠牲が生じうることを忘れてはなりません。万が一にも、高齢者にそれを強いることがないように。そのことを殊更強く申し上げ、私の質問を終わります。