ニュースリリース
【衆憲法審】玉木代表が閉会中審査の実施などについて発言
憲法審査会発言要旨(2024年6月13日)
国民民主党・無所属クラブ 玉木雄一郎
憲法審査会は本日、事実上の最終回を迎えた。結局、今国会で条文案どころか「起草委員会」も設置されず、岸田総理の今の総裁任期中の発議は不可能となった。今、猛烈な徒労感を覚えている。これは岸田総理の政治責任が問われる事態である。また、条文案を出したら他の法案審議を止めると言う立憲民主党、そのことに唯々諾々と従う自民党にも苦言を呈したい。憲法審査会には政局を持ち込まないとの理念が形骸化している。この停滞する憲法論議は、停滞する日本、決められない日本を象徴しているように感じるのは私だけではないはずだ。
他方、先ほど自民党の中谷幹事からご説明いただいた内容には概ね賛成だ。自民党に少しでもやる気があるなら、せめて、起草委員会の設置だけでもここで決め、閉会中審査で本日のメモ及び3会派の条文案を踏まえた条文化作業を進めることを求める。先ほど発言した立憲民主党の篠原委員が議員任期の延長だけでなく緊急政令も加えたいなら、ぜひ条文化作業に加わって欲しい。
これまでの議論で、選挙困難事態に対応するには憲法改正が必要であることは明らかになった。本日もまず前回の立憲民主党本庄幹事の「繰延投票で対応できる」との発言に反論し、あわせて自民党山田委員の質問にも答えたい。
①まず、東日本大震災の発災6日後の平成23年3月17日、地方議員の任期延長特例法を審議した国会で、任期満了時に選挙を適正に行うことが困難な場合に繰延投票の適用が可能か問われた片山総務大臣は次のように答弁している。
「御指摘の繰り延べ投票というのは、これはちょっと趣旨が異なりまして、告示をして既に選挙が走っている間に、その選挙期間中に何か不測の事態が生じて投票できないといったときに投票日を延ばすということであります。」
これは公選法を所管する総務大臣の答弁だが、まず繰延投票は、原則総選挙の公示後や参院通常選挙の告示後に緊急事態が発生した場合にしか適用できない。もし公示や告示の直前に大規模災害等が発生し時に繰延投票を活用する場合は、選挙実施困難だと認識しつつ、いわば「ダミー」の選挙期日を公示又は告示した上で、投票を繰り延べることになる。しかし、こうした選挙や繰延投票のあり方は、本来の制度趣旨に反すると言わざるを得ない。
②その上で、前回の最初の答弁について反論したい。本庄委員は「公選法第33条の2により、衆議院議員の補欠選挙では、任期満了に係る場合では最長約1年間、任期満了に係らない場合でも最長で7か月強、欠員が生じうることを想定しています。したがって、憲法上も、少なくとも7か月強ないし1年は繰延投票が認められる」と答弁されたが、しかし、数選挙区でのみ行われる補欠選挙と、全ての衆議院議員や半数の参議院議員が対象となる総選挙や参院通常選挙において「広範かつ長期に」繰延投票を実施することを同列に論じることは不適切である。そもそも、繰延投票は、ごく限られた投票所で投票ができない場合に短期間投票を選挙期日を繰り延べるものであって、多くの選挙区で一斉に繰り延べるような事態を想定していない。また、総選挙や参院通常選挙で長期間にわたって順次繰延投票が行われると、比例代表選出議員が選出されず、議席数が長期間確定しない。それに対し、補欠選挙では比例がないのでそのようなことは生じない点でも状況は大きく異なる。あてはめるべきではない事案に、無理やり繰延選挙をあてはめていると言わざるを得ない。
③次に、選挙困難事態において繰延期間中の選挙運動に関して、法律改正で対応できるとの反論があったが、しかし、長期間にわたって投票を繰り延べる場合、選挙運動期間を制限あるいは短縮する旨の法律改正を行うとすれば、それはもはや繰延投票ではなく、事実上、国政選挙そのものを延期する制度になる。そのような法律による国政選挙の延期は、衆議院解散から40日以内に総選挙を行わなければならないと定めた憲法54条(総選挙の実施期限)との関係で違憲の疑いが生じる。
④3つ目に、長期間にわたって議員が不在となるような判断を選挙管理委員会に委ねても問題ないと主張されたが、であれば、東日本大震災の際に民主党政権は繰延投票ではなく、なぜ特例法で対応したのか。しかも、前回紹介したように、特例法は再延長されたが、それは発災後4ヶ月経っても選管業務に人が割けないとする福島県選挙管理委員会の要請によって行われている。広範な地域において長期間選挙の適正な実施が困難な、統治機構の根幹に関わるような事態の判断を選挙管理委員会に委ねるのは適切ではなく、内閣と国会で責任を持って選挙の適正実施についての判断を行うべきである。
⑤最後に、いわゆる「スーパー緊急集会」を認めても憲法上の制約はないと主張されたが、それは立憲主義を蔑ろにする発言だ。まず(1)解散に起因する衆議院の不在期間が最長70日であることは文言上一義的に明白である。次に、(2)参議院の緊急集会は、憲法が定める「両院同時活動の原則」に対する例外であり、厳格に解釈すべきである。さらに、(3)70日を超えた場合にどこまでが限度かが分からず、その濫用を止める手立てが憲法上用意されていない。以上を踏まえると、参議院の緊急集会は、あくまで最大70日程度の期間に次の国会が召集されることを前提とした一時的、暫定的、限定的な制度であり、これを超えて対応することは憲法違反であり、権力濫用の危険がある。
以上のことから、選挙困難事態に繰延投票で対応することはできず、憲法違反の恐れすらある。やはり、70日を超える長期にわたり選挙の一体性を害するほど広範に選挙実施が困難な場合に備え、選挙期日の延期とその間の議員任期の延長を可能とする憲法改正が不可欠である。
次に、自民党の山田委員の質問に答えたい。
①70日を超えないが、40日を超えて選挙の実施が困難なケースでは選挙困難事態にならず、任期延長はできないではないかとの質問をいただいたが、この場合は、むしろ緊急集会で対応すべき射程だと考える。ただし、解散から40日を超えて選挙を実施することは憲法の条文上は認められないので、憲法54条1項を改正し、解散から40日以内に総選挙を実施できないときは70日以内に総選挙を行い、その後速やかに国会を招集する旨の規定を設けるべきと考える。その上で、70日を超えて選挙が選挙が困難な場合については議員任期の特例を認める、といった棲み分けを憲法上明確にすることが適切と考える。
②次に、解散で一旦失職した衆議院議員が自らの身分を復活させる決議に加わるべきではなく、参議院の緊急集会で復活手続を踏むべきとの意見をいただいた。一案だとは思うが、解散によって衆議院の身分を失わしめた内閣自身が、選挙困難を認定する以上、自らの行った行為を撤回したと理論構成できるので、内閣の認定を以て身分が復活するとしても民主的統制に問題はないと考える。そもそも、議員任期の延長のような統治機構に関わる事柄は、衆参のできるだけ多くの議員が決することが適切だと考える。
③最後に、解散の禁止と内閣不信任案の禁止はセットではないかとの質問だが、平時におけるチェックアンドバランスとして解散と内閣不信任をセットで考えるのが当然だが、他方、緊急時においてこそ、立法府が一義的に責任を持ち、行政府はその権限の範囲内で対応するという国会中心主義を徹底することで国民の権利保護に万全を期すべきと考える。緊急時において、与党も含めた大半の議員が、どうしてもこの総理大臣や内閣には緊急時の対応を任せられないとなる場合もあり得ることから、最終手段として、内閣不信任決議を残しておくべきと考える。
以上、立憲民主党及び自民党の委員からの質問に返答させていただいたが、もう論点が出尽くしていると思うので、閉会中にも憲法審査会を開いて条文化作業を進めることを求めたい。もし9月までに条文化作業が全く進まないのであれば、岸田総理は約束違反で総裁の職を辞すべきではないか。このことを申し上げ、今国会最後の発言としたい。
<参考>国民民主党「憲法改正に向けた論点整理」(2020年12月)